Noriyasu_Katano's blog

脳科学や量子力学、政治や戦争に関して、日々の感じた雑感を書いていきます。

世間にバレなければ何をやってもいい文化〜『菊と刀』を読んで

It seems that the only people in Japan interested in politics are octogenarians.

今回は第十章「徳のジレンマ」を取り上げます。 この本を読むとつくづく自分の中にある日本人が浮き彫りになり、「確かに、そういう事だったのか」と色々と気付かされます。日本人として日本の文化の中で育った自分を見つめ直す良い機会だと思っています。

前回の第九章までは恩とか、義理、人情を読み解いてみました。ベネディクト曰く日本人の人生観の中には「忠」「孝」「義理」「仁」そして「人情」というものがあり、それぞれが別々のエリアになっていて交わる事がないと言っています。どういうことかというと、人を評価するときに、その人のそれぞの部分で評価しているからです。

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例えば、「あの人は義理堅い人だ」とか「忠誠心が強い」と言うように、それぞれのエリアで評価する傾向があります。

徳を積むことの代償

その様に日本人はそれぞれのエリアを観ているため、良い人というのは、それぞれのエリアのバランスが良い人が評価が高くなります。つまり、良い人を目指すのに、それぞれのエリアの鍛え上げる必要があります。 しかし、このバランスを保ちながら成長していく事が難しい局面があり、その局面がいろいろな作品の中でドラマを産んでいると言えます。「忠義」を尽くすために、家族を犠牲にしたりするのはよく観られます。最終的には死を持って償ったりする事も珍しくありません。 これは、徳を積む大きな代償であり、ジレンマだと言えます。本来は義理も人情も成立させたいが、多くの場合でそのようにいかないケースがあります。

忠臣蔵に代表されるように、頭首に対する忠誠心を果たすため、家来たちは自分達の生活や命を全て捨てて義理を果たします。この価値観だと代償が大きくなり過ぎてしまうため、明治に入って日本は天皇を中心にした価値観に切り替えたと言えます。 1882年明治天皇は「軍人勅語」と「教育勅語」を下賜します。「軍人勅語」と「教育勅語」は読んでいないので、よくわかりませんが、この『菊と刀』曰く、今まで義理という物を優位的に捉えていたが、それを天皇への「忠」に置き換えることで、ジレンマを解消したと言っています。

さらに、「忠」「孝」「義理」「仁」そして「人情」のエリアを超越するものとして「誠実」という概念を据え置いていきます。義理を果たす上でもその中に「誠心誠意」の気持ちがなければ意味がないといいます。「誠実さ」は日本人にとって非常に重要視されています。

誠実さを極める

誠実さは日本人の持っている行動や発言を、より高い次元に変えることができるもので、その誠実さを磨く上で、日本人に求められたのは「自重する」ことです。日本人にとっての「自重」とは物事を慎重に進めることで、多くの事に目を配り先を読むことだと言っています。 例えば、人に食事を奢ることも奢られた側としては「恩を着せられた」と思うことを予測しなければいけなくなります。これは個人の自尊心に対して影響しているとも言えます。相手が自重しないがために、その行動で相手の自尊心を傷つけてしまう事になりかねないのです。

この様に日本人は他人の行動に目を配り、一切の兆候を見逃さない眼力と、他人がこちらを品定めしているのだという強い意識が必要になるのです。

恥を軸にした社会

誠実さを求められた行動は、軽々しい行動ではなく、慎重に重みを持たせる必要があり、その行動には他人に気を配り、強く世間を意識する必要があります。つまり、自重する行動には外部の強制力が非常に影響していると言えます。自発的に湧き上がる強制力によって慎重に行動するのではなく、外部の様子を見ながら行動している事になります。

人は悪い行いをした時に、自分の中での罪悪感と世間への恥を感じます。欧米人は罪の重みを強く感じますが、日本人の場合は恥の方が重く受け取られます。これは先にあげた外部の影響により自重する行動から影響されるものだと言えます。

個人の中での罪悪感を感じる欧米人は告解や贖罪によって罪から救済されますが、日本人にとって罪を告白することは個人の救済にはならないと言えます。自分の悪行が世間に漏れない限り悩む必要がなく、罪を告白することは単に面倒を招き入れる行為としか捉えられないのです。

良くいう「バレなきゃいいんだよ」ってやつですね。

この事は、日本にとって大きな損失を出していると言えます。恥をかかないためにその場では間違っていると思われる事も発言しないという事につながります。「日本人はシャイだから」ではなく「恥をかけない」から問題なんだと思います。