映画『メッセージ(原題:Arrival)』を観てきました。ある日突如地球上に大きな物体が、世界12カ国上に現れます。主人公の言語学者は軍の要請により、物体の中にいる知的生命体とのコミュニケーションを図ります。テッド・チャンのSF短編小説『あなたの人生の物語』を原作とした作品です。
この作品はどの観点からも捉えることができる作品だと思います。ロマンチックな科学者の恋愛と捉えることもできれば、とても暖かい家族の物語、さらに、エイリアンとのコミュニケーションを捉えたSFとも言えます。私の観点としては、言語学を中心としたサイエンス的な物語が強く印象に残っています。
※この後からは物語の話をしていきます。ネタバレの可能性があるので、お読みになる際は個人の責任で読んでください。
軍の訪問
物語の中心は知的生命体とコミュニケーションの形成だと思います。
軍は言語学者の主人公ルーズに、ボイスレコードに収めたエイリアンの声を聞かせ、解読可能かの判断をさせます。ルイーズは言語を解読する上ではその対象との物理的なコンタクトが必要だと要求します。しかし、軍には野次馬的な行動と捉えられ断られます。軍は彼女を諦め、次のサンスクリット言語学者の元に向かおうとします。部屋を出る大佐に対してルイーズは、サンスクリット語の戦争を表す言語の語源を訪ねる事を要求します。
その夜、軍のヘリが彼女の元に訪れ、「論争」と回答します。彼女は「牛の要求」だと答えます。彼女の信ぴょう性を評価し、ヘリに乗せるのです。
(一回目の鑑賞だったので、この様なやりとりで彼女が選ばれたと記憶しています。)
言語学の楽しさ
サンスクリットはインドの公用語の1つでヒンドゥー教や仏教用語としても使われています。一種の高貴な言語だと言えると思います。その言語において争いの語源を聞くこと自体が一つの禅問答の様な感じがします。さらに、その語源を考えると、「論争」というよりも「牛の要求」により争いが生まれたことの方が語源としてしっくりきます。
これが、言語学の面白いところだと思います。
今の日本文化だと日本語というくくりでまとまってしまい、その発生に関しても無頓着になりがちです。多分、死ぬまでに使っている言語を疑問に思う人がどれほどいるかわかりません。大陸文化では通じないことが当たり前です。
言語は常に発展し、進化し続けるもので、その最後尾が現在でしかないのです。その言葉の発生を想像することは言語学の醍醐味だと言えます。
「何のために地球に来たのか?」に含まれるもの
さらに、話が進みルイーズと知的生命体とのコミュニケーションが始まります。ここで色々と言語学の解説が入ります。軍としては効率的速やかに何の目的で地球に来たのかを聞き出すことを目指していましたが、ルイーズのとった行動はその真逆を行っていました。それは、単語一つ一つを覚えさせることです。その必要性を軍に訴えているところも見所です。「何のために地球に来たのか?」この一文を聞くためには多くの要素が含まれています。
最初に気づかなければいけないのが、「?」疑問系です。その文章が疑問文なのか普通の文章なのかという区別はどうやってつけるのでしょう?
現在の言語では「?(クエッションマーク)」をつけることで疑問文になります。これはすでに疑問(問う)ことが当たり前の文化だと気づきにくいです。
そして次に「you」に含まれる、"あなた"という限定的な固定概念と、"あなたたち"というより大きな概念的な違いを意味付ける必要があります。ここで聞きたいのは、正確にいうと「あなたたちは何の目的で地球に来たのか」ということです。
I am Bob(私はボブです)
この様に一つの疑問を投げかけるためには多くの要素で意思疎通を図る必要があり、そして、初めに相手と意思疎通が取れたのが"Louise(ルイーズです)"と言う名前と自分に指差し固有名刺をお互いにつけるのです。
まさに、英語の最初の授業で習った、「I am Bob(私はボブです)」状態なのです。
このブログでは何度か言語に関する記事を書いて来ました。
noriyasu-katano.hatenablog.com
言語は生命体と生命体の意思を繋げるための道具です。日本人は単一民族で言語自体の認識がとても表面的です。そのため、どうしても言語が通じるものと言う全く誤った認識を持ちがちです。
この様なエンターテイメントでその重要性を再認識される事を非常に喜ばしく思い、より多くの人に見てもらいたいと思います。
まだまだ、書き足らないので、別の機会に書いていこうと思います。
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